文房 夢類
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長老コリドラス

3月26日の朝、コリドラスが死んだ。高齢なので、ちょっと横になっているのかもしれない、と翌日も見守っていたが、3日目に諦めた。とうとう死んでしまったのだ。
6センチという大きさは、この種類では最も大きい。詳しく言うと、ナマズ目・カリクティス科・コリドラス属。このなかのコリドラス・パレアトゥスという種類で、熱帯魚を飼う人たちが黒コリと呼んでいる、もっとも知られている種類だ。ヨットが帆を掲げるように、背びれを高く掲げている姿は、小さいながら堂々としていた。
水槽の底にいて群れるのが大好きだから、たった一人になってから寂しかったと思う。水槽に顔を寄せて声を掛けると、丸い目を向けてくる。わかっているのだ。他の魚たちと仲が良く、喧嘩をする姿を見たことがない。一家でいたときは、先頭に立って泳ぎ回り、あとからゾロゾロと一族が連なって泳ぐ姿は見ていて飽きなかった。卵を産むと、魚たちより私の方が大騒ぎで、隔離して孵化を待つ。この子供たちの可愛いことといったらない。大きな親の後ろを小さな子たちが遅れないように一所懸命についてゆく姿が、昨日のことのように思い出される。姿は地味だけれど、きわめて仲の良い、この性質が魅力で長く付き合ってきた。
4年前の3.11の日には、すでに独居の長老だったのだ。その日は図書館のボランティアに出ていて、急いで帰宅したときに目に飛びこんできたのは、水浸しの玄関だった。60センチの深さの水槽の水は半分以下に減っていた。倒れないだけ儲けものだった。このとき長老はすでに3年か4年経っていたから、相当の年齢だったことになる。
もともとは、ブラジルの海岸流域が故郷なのだ。たぶん日本で繁殖して売られたのだろう。いまこそ故郷に、飛んで帰って欲しい。
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