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Sep 2011

明治四十年大水害実記

『明治四十年大水害実記』 副題 武田千代三郎知事の追想記  武田千代三郎 著 長田組土木株式会社 平成13年 発行  88ページ サイズ=148 X 210  ISBNなし 非売品
慶応3年1867年生まれ、明治38年1906年に山梨県知事であった武田千代三郎が、明治40年に石和地方を中心に襲った大水害を追想している本。この大水害は、山梨県災害史のなかでも例を見ない大水害だった。原文は漢文体。これを現代語訳にして1冊の本にするきっかけを作ったのが、発行者の長田氏を初めとする旧制山梨高校の同級生たちだった。同級生の一人である郵便局長さんが、たまたま土地の禅寺を訪れた折りに和尚さまから見せてもらったのが、4000字ほどの漢文だった。長田組の社長になっていた同級生をはじめ、皆が集まり、県の教育委員会、郷土研究会などの方々の協力を得て、非売品として発行した。私は、1冊の書物を世に押し出したいという熱意に、心底感動した。報せたい、読んでみてくれ、の純粋な一心の結晶である。私は、この無名の書物と山梨県山中湖村にある図書館で出会った。
内容の一端を紹介しよう。石和で、1本の柿の木に96人の人々が取りついて3日間絶食のまま助けを待った、そのあいだに樹上で、ひとり出産したという。また、対岸に取り残されたまま、三日三晩飲まず食わずの人々に、水と食料が届いた事を知らせるために、障子に大きな文字で「米キタ」と墨書、後ろでたき火をして文字を浮き上がらせて、遠くから読めるようにしたという。通信手段がなかった当時の苦労と工夫が生き生きと記されている。大水襲来の数日前に、石和税務署の新築工事が完成していた。堅固な土台の強固な作りだったという。署長夫妻をはじめ、多くの人がこの建物を頼って避難した。しかし、宙を向いて流され、粉々に破壊されてしまった。一方、粗末な家々は残った。それは、水を熟知している老人たちの家で、あらかじめ壁を取り払い、床を外して洪水を受け入れていた、流れが去ったのちに修復するのだと言う。
40年43年と続けて襲われた大水害の経験から県民は、水害は山の荒廃によりもたらされる。山林の育成、保護のために、御料林の還付を、と願い出て、44年に還付された。
武田信玄は、隣国の敵を怖れることはなかったが、国内の水害を警戒し、油断をしなかったと言う。彼は堤防を築き、石を積み、竹を植えるなどしたが、人と人の結束が最も大切、と説いた。また、洪水のあと、修復するだけで終わりとせず、常に防水の技術を訓練させていた。備えについては、現代の人は、信玄に遥かに及ばない、と、武田千代三郎知事は記している。
今年2011年の台風12号では、全国で100人を超える犠牲者が出て、被害は甚大、いまも堰留湖に悩まされている。本書の4285文字をあらためて熟読してほしいと思った。

中国の核実験

『中国の核実験』高田 純の放射線防護学入門シリーズ 副題 シルクロードで発生した地表核爆発災害 高田 純 著 医療科学社 2008年7月 発行 ISBN 978-4-86003-390-3 C3047 ¥1200E
著者は、札幌医学大学教授 理学博士 医学部物理学教室 大学院医学研究科 放射線防護学 本書は、56ページの小冊子のような小粒の本。
中国は、第三者調査に対して現地を公開せず、公式に実験事実、周辺影響を開示していない。このために調査は困難を極めるのだが、著者は、隣接するカザフスタン調査の時のデータをもとに、この調査結果を発表した。私は、何年か前にケイと旅をしたタクラマカン砂漠周辺で、現地ガイドさんが、いとも簡単に、ここでは飲んでもいけない、食べてもいけない、と説明するのを、上の空で、というか、他人事のように聞き流した。が、本書を読むと、あれが何を意味していたか、が歴然として愕然とした。
日本人観光客に人気のある「さまよえる湖」ロプノール。シルクロードのハイライトスポット。ここが核実験の場所だ。読み進むうちに血の気が引いて行く。
英国では、1998年にドキュメンタリー「Death on the Silk Road」を制作、欧州諸国をはじめ83カ国で放送、ローリー・ペック賞受賞。が、日本ではみることがなかった。これは、シルクロードで中国が行った核実験による悲惨な死がテーマである。
中国は、シルクロードでメガトン級の地表核爆発を3回行ったのだ。この実験によるウイグルの急性死亡者は19万人以上、日本への影響の程度、範囲も、本書に発表されている。本書には、ただの一行、一言も感情的な言葉は使われていない。あくまでも、調査の結果報告である。しかし、私は、致死レベルA区域でのシミュレーションに書かれている「急性死亡した羊飼い」が、ゼロ地点から40キロ風下で遭難、10分で意識不明、1時間で中枢神経死、の有様を読み悶絶した。どうして勉強を怠っていたのだろう、後悔している。

知事抹殺

『知事抹殺』副題 つくられた福島県汚職事件 佐藤栄佐久 著 平凡社 2009年9月 発行 ISBN 978-4-582-82454-4 C0095 ¥1600E サイズ 128 X 187  344ページ
著者は、1939年福島県郡山市生まれ。1983年自由民主党公認で参議院選挙当選、1988年、福島県知事。4回連続当選し、長期にわたり知事を務めた。が2006年に、汚職事件の嫌疑をかけられ辞職、のち収賄容疑で逮捕された。
本書は、著者が郡山に生まれてから今日までの歩みを克明に綴っている。そのなかでの彼の主張は「無実」の一言である。彼自身の無実だけを主張しているのではない、むしろ、周囲の人たちまでもが巻き込まれて、自殺に追い込まれ、自殺を企てた後に、いまもなお意識が戻らない人がいる、そういう多くの「殺された仲間」を抱えての主張である。
私は、冒頭にある「墓碑標」の話に強い衝撃を受けた。墓碑標という、聞いたことのないものが何か、読んでみていただきたい。一昨年、会津に行ったとき、悔しそうに話してくれた女性、ひと冬10万円はかかるんですよ、雪に! そのことも思った。
本書の読みどころはふたつある。一つが原発問題。もうひとつが、検察の捜査と取り調べの問題。著者は、自由民主党から出ていて、原発にも反対していない。彼がひたすら励んで来たことは県民の生活を守るための働きだった。だから、知事になってから、県民のために、まじめに福島原発の勉強をはじめている。自身の足取りを記すうちに、それは自然と記されて行く。原発に関する知識が増えて行く知事。そのあいだにも、事故が起きる、隠蔽する、また事故が起きる、さらに「もんじゅ」の事件も知った、その成り行きを知事は、県民の立場から見つめる。そして悟ったことは、原発は決して消えない、消せない火だ、人が扱える代物ではない、ということだった。しかも県民のためにはならず、東電と国のためだけに存在するものだと理解した段階で「まちがえるな! 敵は国だ!」と声を上げて原発反対の立場を明確にしたのだ。逮捕の動きが発生したのは、この直後のことである。
原発の問題と並ぶ、もう一つの問題は、検察による拷問のことである。どこにも拷問の文字はないが、これは捜査ではなく、取り調べでもなく、まちがいなく拷問である。火攻め水攻めばかりが拷問ではない、むしろ現代にそれはない。標的にした人間の特質を見て、いちばん弱いところを突く。この場合は、人情に厚い性質を利用されて、周囲の人物を痛めつける手でやられたのだろう。

出版と社会

『出版と社会』 著者 小尾俊人(おび としと)発行 幻戯書房 2007年9月 ISBN 978-4-901998-28-4 C0095 ¥9500E 198mm x 210mm 656ページ
著者は、1922年、長野県生まれ。敗戦後、山崎六郎、清水丈男とともに「みすず書房」を創業。以来、編集責任者を45年つとめ、1990年に退職した。『本が生まれるまで』ほか、著書、編著多数。2011年8月15日 没 86歳
本書は、退職後にまとめた大著。「出版クラブだより」に連載されたものを元にして加筆、写真図版などを加えたものである。私からの眺めでは、歴史の場面だが、編集者として、出来事と関わり、事件と並走し、同じ部屋で見聞きした45年間を回想し、たくさんの資料を提供しつつ記している。振り返る彼にとっては、束の間の半世紀であり、過去ではない、常に現在であったろう。
冒頭に「関東大震災(大正十二年)がもたらしたこと」という題で26ページにわたり記している。が、やはり編集者だ、そのとき講談社の野間清治は。そのとき丸善の顧問であった内田魯庵が、なんと書いたか、と立ち位置と視線は見事に決まっている。当時「婦人公論」の編集長だった嶋中雄作が、震災の1月後に書いた文を紹介している。
「社会主義者が幾年もかかって未だ成し遂げなかった平等を、自然はわけもなくやってしまった。金持も貧乏人も、大臣も馬丁も、学者も愚者も‥‥(中略)そのどこに区別があったというのだ。新聞が正規に発行されていたなら、あれほどの流言飛語が行われはしなかったろうし、可哀想な人間をあれほど苛めなくても済んだであろうに」
いま、東日本大震災の最中であり、小尾氏は、その直中の8月、それも15日という日に亡くなられたのだ。大震災から大震災までを生きた編集人。本書は、昭和の出版史として、研究者にとって貴重な史料であることは確実だが、登場する人々が躍動するさまを読んでいると、興味津々で時を忘れる。が、決してゴシップ集ではない、至る所に著者の高い見識、編集に対する自負、謙虚な人柄が伺われる重い書物である。
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