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Jun 2016

ニルスのふしぎな旅

『ニルスのふしぎな旅』NILS HOLGERSSONS UNDERBARA RESA GENOM SVERIGE 発行=福音館書店2007年 著者=セルマ・ラーゲルレーヴ Selma Lagerlof 訳=菱木晃子 上下2巻 サイズ=21cm 上巻=515頁下巻=534頁ISBN9784834022735¥2300@
著者=スウェーデン生まれ(1858〜1940)ストックホルムの師範学校卒業後、教職に就く。1895年より作家活動に専念。
1909年ノーベル文学賞受賞 女性初の授賞である。作品に本書をはじめ『ポルトガリヤの皇帝さん』『モールバッカ』など多数。
訳者=(ひしき あきらこ)1960年東京都出身 慶應大学卒業後スウェーデン・ウプサラでスウェーデン語を学ぶ。児童書翻訳
内容=14歳の少年、ニルスは怠け者で、小動物を虐める困り者。あるとき妖精にいたずらを仕掛けたために、小人にされてしまった。小人のニルスはガチョウのモルテンの背に乗り、ガンの群とともにスウェーデン中を旅してのちに帰還する55章の物語。
この物語の企画は、スウェーデン国民学校教員協会の読本作成委員会から地理の読本を書くよう依頼されたもの。各地を念入りに取材したと言われる。
感想=上下巻合わせて千頁を超える長編。昨年から私は、ノーベル文学賞受賞の女性作家を辿っているので、女性初の受賞者として注目して読んだ。
スウェーデンの地形、村落が、空飛ぶ鳥の背中から見下ろすニルスの目を通して描かれる。数々の冒険をしながら、両親の悩みの種だったニルスが、大きく成長してゆく。山火事、嵐、極寒の湖に翻弄される自然の姿と、産業革命が北欧諸国に及んだ時期であり、製鉄所や銅山、目の下を汽車が走る様子も充分に描かれる。同時に、土地の植物、動物たちがふんだんに登場する。
行く先々で出会った人が語る小話が織り込まれており、それは伝説だったり、ついこの間の出来事だったりする。ガチョウのモルテン、ガンの群の女隊長アッカたちとの深い友情、イヌワシのゴルゴや悪キツネのスミッレとのつきあいは、ニルスの心を大きく成長させてゆく。右か左か、さあ、どっちを選ぶか? と追い込まれたニルスが、裏切りを選択できず、苦しみに耐えて誠実な道を選んで進む。
ひとつ羽衣伝説に似た話があった。老人が語るバルト海の漁師の話。アザラシの群が中州を目指して泳いできた。漁師が鎗を構えたが、中州に上がった群は美しい娘たちだった。緑色に光る絹のドレス、真珠の冠。漁師は脱ぎ捨ててあったアザラシの皮を1枚隠す。
子ども向けの物語の衣を着ているが、随所に死生観、友情論、著者自身の思いや人生途上のいきさつなども織り込まれている。
肉づきの豊かな、太い骨格の、大柄な女性、そんな印象を持つ堂々とした作品。

作品とは関係ないが、この作品がスウェーデンの作家による、スウェーデンを舞台にしたものという点に注目した。日本には出羽守(でわのかみ)が大勢いて、外国へ出掛けていって帰国すると、出羽守になる人が多い。アメリカでは、スウェーデンでは、という具合に日本と比較して見せるのである。出羽とは越後国に設置された出羽郡のことで、和銅5年に出羽国となり、陸奥国と並ぶ北の国であった。いまは、語呂合わせで使われているが。
最近は、スウェーデンでは、と引き合いに出す人が多い。年金問題や消費税についてお手本にしたがったり、未来予測として観察したりする。しかし、ニルスの旅を読んで見て、この国については、出羽守の出番はないのではないか、と思った。
とにかく昔っから豊かなのである。地下に、いろいろ詰まっており、掘り出せば換金できるのである。民話にも語られる宝だ。
日本では、掘ったって温泉と地熱くらいじゃないか。スウェーデンの地下資源は豊かだ、裏庭に大きなお蔵を持っているようなものだ。お蔵から出して外国へ売りつければ良い。日本では墓石も買っている。外面だけをみて出羽守をするのは考えものです。

もっと知りたいPM2.5の科学

『もっと知りたいPM2.5の科学』著者=畠山史郎・野口 恒 発行=日刊工業新聞社 2016年 横書き 158頁 サイズ=210 X148mm ISBN9784526075094¥1800
著者=畠山史郎(はたけやま しろう)1951年東京都出身 東京大学理学部卒同大学院理学系研究科化学専門 国立公害研究所を経て東京農工大学大学院教授。中国の研究者と協力し,中国国内の大気汚染物質の航空機観測を実施。ハーゲンシュミット賞授賞。
   野口恒(のぐちひさし)1945年愛知県出身 和歌山大学経済学部卒 法政大学大学院社会科学科中退 フリージャーナリスト
内容=地球環境の実態把握と改善・保全を考えるなかの、PM2.5について語る。なぜ問題か。そもそもPM2.5とは何か。その物質は健康にどのように影響するか。どこから発生し、どんな微粒子か。なぜ遠くまで飛来するのか。その測定方法。拡散の防止方法。対策グッズの紹介。
感想=花粉症の季節が来ると、どこの山の杉花粉がくる、など報道される。どこどこ山は国内の山で、中国のアカシアの花粉が襲来することはない。ところが黄砂は海を渡ってくるのだ。どうして花粉は海を渡らず、黄砂は飛んでくるのだろう? 
といういいかげんな印象をもって暮らしているために読むことにした本。
花粉と違ってPM2.5は、単一の物質ではなかった。微小粒子で、有機炭素、硫酸塩、硝酸塩、金属などを主成分とする混合物質だという。猛烈微小だから飛ぶので、大きな粒の花粉は短距離しか飛べないのだった。中国大陸から黄砂も飛んでくるが、この黄砂にPM2.5など、さまざまな有害物質が付着して運ばれてきている。日本の火山灰も運び手として働き、国内に拡散している。これらの有害物質は、文明社会を維持する行為と抱き合わせで発生しているのだから、暮らしかたを根本的に洗い直す必要があると思う。対症療法だけでは限度があるだろう。
日本国内でもPM2.5が発生しているが、大気汚染防止法や環境規制など国内法で抑えている。しかし空には壁がない、どんどん飛んでくるということが分かった。畑山先生は、元を絶たなきゃ、と考えて中国国内の汚染物質の研究もされたのだと思った。立派なことだと尊敬する。
この本で、「そらまめ君」というサイトを知った。これは環境省大気汚染物質広域監視システムのサイト。日本列島の大気汚染状況を監視して常時報せている。そらをマメに監視します、と出ていた。天気情報と合わせて見る事にした。

彼方から

『彼方から』著者=ひかわ きょうこ 発行=白泉社2004年 全7巻 文庫版 ISBN4592887379 @¥648 平均360頁
著者=1957年 大阪堺市出身 漫画家
内容=タイムスリップ・ファンタジー漫画。ごく普通の女子高生、典子が異世界へ飛ばされる。言葉も通じない世界でノリコとして生きて行く事になるが、この異世界では、樹海に「目覚め」が現れるという予言があり、「目覚め」を捕らえるための探索隊が出ていた。そこへノリコが現れたという設定で、イザークという探索隊のはしくれの美形青年がノリコを発見する。
物語は、ここから始まる。
イザークは「目覚め」を見つけ次第殺さなければならない運命を担っていた。それは身の内に「天上鬼」という悪の怪物を秘めている故だった。が、無邪気に慕ってくるノリコを庇うことになる。イザークは文句なしに格好いい。ノリコは可愛いの極致。数々の危機を乗り越えて「天上鬼」を克服したイザークは浄化される。さいごに二人は光の世界へ向かう。
感想=アクションシーンが多く、ダイナミックに描かれている。繊細な長い線は、あくまでも細くしなやかだが、非常な早さを持って描かれていて、大きな魅力だ。絵の美しさ、迫力、そしてなんといっても主人公ノリコの可愛いことといったらない。ノリコとは対照的に鋭角的に表現されるイザークの魅力は、ノリコのかわいらしさを支えて充分だ。
「目覚め」とは、ゴータマ・ブッダの日本語訳である。樹木の精が登場して主人公一行を支えるが、ブッダの樹は菩提樹、菩提樹とは「目覚めの樹」と訳される。困難を克服しつつ、光の世界へ向かうという、この物語は、作者が12年かけて描いた力作であり、たぶん代表作となる作品だが、7冊の、どこを開いても宗教色は微塵もない。たぶん、読者である少女たちは、お釈迦様など夢にも思わずに楽しみつつ読み終えるのではないだろうか。
ノリコは言葉が通じない、と分かると学び始める。困難にぶつかると明るくがんばる。しかし何の取り柄もない、ただの女の子なのだ。
この作品で肝心なところは、イザークが天上鬼に変身したとき、その怪物を見たノリコが、いささかも驚かず、たじろぐこともなく、全幅の信頼を寄せて愛する心を伝える場面だ。外見ではない、悪事悪行、乱暴を働いたとしても問題ではないという価値観を持って、本人へ愛を傾ける部分だ。
終巻にに至り、イザークの悪は浄化されて奥底に眠る美しい心が現れる。ノリコの力は、とくに何もない、信じ、ありがとうと言うだけ、というものなのだが、これによってイザークは、身の内から悪が噴出する恐怖から解放される。
イザークが何故「天上鬼」を抱えて苦しまなければならなかったか、そこに疎外されてきた辛い過去の設定が置かれている故に、イザークに同感する読者も多いことだろう。
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