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Jul 2016

神・人・家畜

『神・人・家畜』著者=谷 泰 発行=平凡社1997年 ¥3800 サイズ=20cm 396頁 文献 ISBN458248123
著者=たに ゆたか 1934年福岡出身 京都大学史学科卒業 京都大学名誉教授 専門=西洋史・社会人類学。著書=『牧夫フランチェスカの一日ーイタリア中部山村生活誌』1976年平凡社『牧夫の誕生ー羊・山羊の家畜化の開始とその展開』2010年岩波書店など
内容=人が動物を家畜化して、肉を食用にし、次に乳も食用にする。家畜のはじまり、その発達を徹底したフィールドワークで探索考察してゆく。その基本に、西欧の人間・自然に対する感覚を規定した旧約聖書の基本命題があると考えをすすめる。
目次を挙げると、その内容の輪郭が分かる。1,中近東における牧畜の起原をめぐって 2,搾乳の開始とその意味 3,去勢オス誘導羊と宦官 4,都市と牧人集団 5,旧約聖書における神・人・家畜関係。巻末に注・あとがき・参考文献・主要事項索引。
感想=人類が、いつごろ動物を家畜化したか。家畜化された動物の種類は。動物の乳を人の食用にしはじめたのはいつ頃か。またその経緯は。牧畜の群を誘導する役目の動物の選び方、育て方。考古学者の、想像を絶する根気の良さと思考の深さ。読むにつれて目を見張る思いがした。
日本には、雨をあらわす言葉が多く、西欧には動物を細かく分けて名付ける文化があると言われるが、それぞれに名をつける必要のある暮らしがひろがり、人の命と動物の命が密着している様子に驚嘆した。そこでは聖書が大地と同等の重さを持ち、天空と同等の権威を示しつつ人を規制している。最終章で旧約聖書が現れる。旧約聖書を読みすすめる著者の眼は、何度も読んでいる当方の目には留まらなかった世界を勢いよく開いてくれた。そうか、こんな視点から読むと旧訳は、こんなことを語っているんだ、と眼から鱗だった。
この書物は、ほぼ400頁、しかも1頁に860字詰め、単純計算で35万字。これに多少の図表が加わる。
著者は、あとがきで次のように書いていられる。「現代的問題に直接関わりのない学術書はおよそ売れにくい。わたしは本書の原稿を書き終えたあと、枚数が多すぎるという理由で、出版を引き受けてくれる先を見出すのに長く苦慮しつづけていた。そしてほとんど絶望のはて、「出版が決まらなければ、もう墓場に一緒に持っていく」と同僚に口走った」。
ほとんど絶望した、そのあとに陽の目を見る運命が待っていた名著。学問に栄光あれ。

自殺の9割は他殺である

『自殺の9割は他殺である』著者=上野正彦 発行=カンゼン 2012年 ISBN9784862551597 ¥1900 サイズ19cm 207頁
著者=うえのまさひこ 1929年 茨城生まれ 東邦医科大学卒業 東京都監察医務院院長退官後は法医学評論家。2万体を超える検死、解剖5000体以上、30年間死体とだけ付き合ってきた。著書に『死体は語る』『死体を科学する』『監察医の涙』など。
内容=自分で命を絶てば自殺とされて終わる。監察医には、命を絶つまでのありさまが、死体に刻まれているのが見えるという。ほとんどの自殺の内面には他者の力が及んでいると説く。とくに子どもの自殺にたいして、不憫の心と社会への問いかけをしている。
感想=父も医師であったという。卒業後、なかなか専門を決められずにいて、監察医になったいきさつも語られる。
日本だけで年間約3万人が自分の命を絶っている。3万を365で割ると、毎日82人以上という、とんでもない数だ。自分が高齢になったせいか、高齢者の自殺について書かれた部分が心に残った。思いも寄らなかったが、高齢者の自殺は三世代同居、最近では四世代同居もあるそうだが、大家族の中の老人の自殺がトップだという。私は一人ぼっち老人がトップだと思っていたので驚いた。遺書には、病苦とあるが、それは家族を思いやってのことだ、と上野さんは書いている。(自分さえいなくなれば、まわりの皆が楽になるだろう)という老人の呟きが聞こえるような気がした。
監察医は、死体を見て人を救うこともあるのだ。高齢の男性が、妻を殺したと自首して逮捕された。その検死。病妻は湯槽の中で死んでいた。湯槽内で殺すには、頭を抑えて沈めるのだそうだが、この死体には、腕に掻き傷がたくさんついていた。これは湯から引き上げようとした夫の指の跡だった。殺したのではない、逆に沈んでゆくのを助けようとして果たさなかったのだった。検死の力で、事件ではなく事故と修正されたという。亡くなった奥さんも救われたことと思った。優しい人たちの姿も浮き彫りになる。
上野さんが我慢ならない思いをぶつけているのは、子どもの自殺だ。まだ人格が未熟である子どもが死を選ぶのは、出口を見つけることが出来なかったからだ、まわりにわずかの隙間があれば、という無念さの背景に、学校、家庭、社会、すべての無関心さを見ていられる。これは、大勢の人たちが、一人残らず、少しずつでいい、隙間、扉、カギや浮き輪など何でもいい、毎日たくさん手渡してあげていたら、ということにならないか。周囲の全員が殺しに荷担したのだ。
ジュール・ヴェルヌの『タイムマシン』という小説の映画で、未来へ行った主人公が眺めた風景の一場面を思い出した。
ゆったりと寛ぐ人々の傍らを流れる川を、溺れもがき流されてゆく人がいる。ところが、寛ぎ憩う人々は、眼に入れていながら何もしない。誰一人表情も変えない。振り向きもしない。腰も上げない。心地よい憩いの、自分のひとときを続けているのだ。大昔のモノクロ映画のこの一場面は、現在にタイムスリップしてきているのではないか。

異常気象で読み解く現代史

『異常気象で読み解く現代史』著者=田家康 発行=日本経済新聞出版社2016ISBN97845321698791800 サイズ=20cm 335頁人名索引・参考文献
著者=たんげ やすし 1959年神奈川県生まれ。横浜国立大学経済学部卒。農林中金総合研究所客員研究員。気象予報士。日本気象学会会員。日本気象予報士会東京支部長。著書に「気候文明史」「世界史を変えた異常気象」「気候で読み解く日本の歴史」など。
内容=20世紀初頭から現代にかけて起きた気候変動・異常気象は、天から降ったのか地から湧いたのか? その背景に、人の判断によってもたらされた部分が、これほどあったのだという事実を、文献資料・データに基づいて解説している。
感想=気候変動・異常気象に対して人間はあくまで「受け身」の存在だった。だからこそ原始時代から世界各地で天変地異を鎮める目的の祈りが捧げられてきた。それは人為ではどうしようもない巨大な力であり、為す術はなかったのだ。
著者は、気候変動の歴史を記録に従い綿密に辿り、人間がそれに対して如何に対応し、結果はどのようなものだったかを語る。
1936
年代にアメリカ大平原を襲ったダストボールと呼ばれる大砂塵がなぜ発生したか。これは「砂塵」(1939年アメリカ製作)「大砂塵」(1954年アメリカ製作)、この2本の西部劇の舞台背景として、その猛烈さが描かれている。
アメリカの開拓者は、西へ西へと農地を開拓していった。しかし大平原は雨が少ない。水利を無視した農業は、旱魃に耐えることができなかった。土地が荒廃し砂塵が舞い上がったのである。融資を受けて農地と農機具を買い経営をしている農民であるから、需給ギャップにより生活が破綻する。このときの農民の苦悩を描いた映画が「カントリー」(
1984年製作アメリカ映画ジェシカ・ラング主演)だ。興行成績は悪かったが、必見、価値ある作品である。映画のことは本書とは関係がないが、映像として大平原を知ることができるので付け加えた。
また、
1959年に始まった中国の大飢饉について語られる。これは大躍進政策として1958年から61年にかけて中国人民共和国が行った農工業大増産政策の結果もたらされた飢饉だった。毛沢東は、ソ連の農学者、トロフィム・ルイセンコが提唱した農法を全土に指示した。中国4000年の伝統的農業、治水を捨てて、ソ連の方式を採ったことが首を締め、推計3000万人~5000万人の餓死者を出したのである。
日本の米の不作年に、東南アジアのロンググレイン米を緊急輸入したときのことも語られる。国内産の米を食べたい、輸入米はまずいと不平を言った日本人。不作故に輸入した翌年は豊作で備蓄米が増えた。古米、古古米が溢れ、古米はまずいからイヤだ、と言う声が上がったことも記されている。行間に私は、日本人の我が儘さ、そして死に苦しみを知らない世代に対する怒りを受け取った。

宇宙物理学者のカール・セーガン(193496)らは「核の冬」現象、すなわち核兵器使用による影響で日光が遮断され、破局的な異常気象が発生し、深刻な食糧不足が始まるという論文を科学雑誌サイエンスに発表した。しかし政治家は科学者の意見が気に入らず不確実性を言い立てて耳を貸さなかった。
不確実性は3つの要因(内部変動・自然由来の外部要因、そして人間活動に由来する外部要因)が複雑に絡み合っておきる。1962年キューバ危機の時にケネディとフルシチョフ、この2人の指導者が最も怖れたことは、人間や組織のふるまいの不確実性についてだった。
1986
年にチェルノブイリ原子力発電所大事故が起きたとき、陣頭指揮を執ったのがゴルバチョフだった。彼が軍縮交渉を進めたとき、アメリカの指導者とは異なり、あきらかに「核の冬」を念頭に置いていたと言われる。彼は一方的に核実験の停止を宣言して、こう述べている。「もし誰かが核攻撃の第一撃を行ったとしたら、その者は自身の死に悩まされるに違いない。それは相手国からの報復攻撃によるものではなく、自らが撃った核弾頭の結果として」。
こののち、2000年にゴルバチョフはこうも言っている。「ロシアとアメリカの科学者によるシミュレーション・モデルは、核戦争が地球のすべての生命を破滅に導く「核の冬」を引き起こすことを示した」
著者は、「セーガンの声は、大西洋を越えた東の大国の指導者に届いていたのだ」と、感激を込めて綴っている。著者の感激は読む側に伝わり、胸躍る緊張感に包まれて読んだ。
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