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Jan 2017

日本速記事始

『日本速記事始』副題=田鎖綱紀の生涯 著者=福岡 隆(ふくおか たかし) 発行=岩波書店1978年 新書 218頁 ¥280
著者=1916年広島生まれ 1929年上京、商業・速記・英語の各学校卒業。早稲田大学通信文学部終了。海軍通信学校暗号科卒業。速記者・東京速記士会理事
内容=日本に速記術をもたらした人物、田鎖綱紀の伝記。
感想=画像も音声も、自由自在に保存できる現在、速記という言葉さえ知られなくなった。しかし、テレビで国会中継を見ると、まるで議場の主役であるかのような中心の席にいて仕事をしている速記士の姿を見ることができる。
この本は、録音録画は夢にも出てこなかった時代に、なんとかして発言した言葉を、そのまま記録したいと願った人の伝記だ。
田鎖綱紀は、初めから速記の記号を案出しようとしたのではなかった。
彼は日本語文字を作りたいという大望を持って、外国に生まれた速記を手本に、日本の速記を生み出した。
ローマ字は西洋の文字、漢字は中国の文字。カタカナ、ひらがなは、漢字の変形だ、と田鎖はいう。純粋な日本文字ではない、という。
純粋の日本文字が欲しい。この熱意、努力が結果として日本速記術を生み、録音技術が発達した現在も、未だに必要とされている存在となったのだった。
この本は、速記に生涯を傾けた田鎖綱紀の生涯と同時に、その時代の記録でもある。
目次の次、中扉に当たるページに晩年の綱紀の写真が出ている。白髪白髯、眼鏡をかけた明治人の姿。その上端に東京雑司ヶ谷墓地の地番が記されている。綱紀の墓所だ。次ページに墓所の墓石に隣接して建てられた念碑に刻まれている文字が置かれている。著者は、この念碑建立の発起人の一人である。その文字をここに置きましょう。
表「日本文字始而造候居士」裏「岩手県盛岡の人田鎖綱紀は、明治15年(1882年)日本傍聴筆記法を発表し、速記の今日の隆盛の礎を開いた。その八十年を迎えるに当り、翁が生前の抱負を示す遺墨の碑をここに謹んで建立する」一九六二年七月三日 日本速記法習得者有志一同

魔法のホウキ

『魔法のホウキ』The Widow’s Broom 著者=Chris Van Allsburg クリス・ヴァン・オールズバーグ 訳=村上春樹 発行=河出書房1993年 ISBN9784309261874 ¥1740 縦長大型絵本 338X208mm
著者=1949年アメリカ・ミシガン州生まれ 児童文学作家・イラストレーター。ミシガン大学で彫刻を専攻したが、妻の勧めで絵本作家に転向した。3作品が映画化され、JUMANJI ジュマンジは、日本でもよく知られている。この作家の絵本はどれも村上春樹が翻訳している。
内容=大昔の秋、月夜に空から人が落ちてきた。それは魔女で、乗っていたホウキが故障して飛べなくなったからだった。魔女は他の魔女に助けてもらって空へ戻ったけれど、ダメになったホウキは捨てられ忘れられてしまった。ところがこのホウキが動き出して〜。
感想=横長の絵本は見慣れているけれど、この絵本は縦長。色はセピア色一色。魔女が使っていた魔法のホウキは、ちょっと変わった形に見える。
本の見返しに「ブックリスト・レビュー」がついていて「オールズバーグの作品の中でも最高傑作の部類に入る」とある。
文章は、この物語にふさわしい見事な雰囲気を湛える日本語に置き換えられている。村上春樹が、本業の翻訳家として語彙を吟味し選び抜いたことが窺われる。
ウィドウを後家さんと表現している点も、読み上げた場合の音の効果にも配慮していると感じられる。難しい漢字がたくさん出てくるが、こうした文字の選択判断は、詩人、田村隆一が童話を翻訳した時にも見られるものだ。この判断は、幼い者、日々成長する子たちに対する信頼と希望が基になっているのだろう。これ、読めない! 知りたい! という気持ちを掻き立てられて子供は進む。
後家さんに拾われたホウキは、たくさん役に立つことをする。ホウキは自発的に働いてくれる。その様子は映画「ファンタジア」の魔法使いの弟子そっくりだ。
しかし普通でない働きもしてしまうので、眠っているところを捕まえられて焼かれてしまう。その焼かれようは、魔女裁判で火あぶりになった魔女を思わせる。
後家さんが、眠っているホウキの居場所を村人たちに教えてしまうことなど、多くのシーンに重層的な意味が込められていて、読み聞かせをする大人は、子供が受け取る世界のほかに、歴史を踏まえた深い世界を感じ取ることができるだろう。

サンゴ知られざる世界

『サンゴ知られざる世界』著者=山城秀之(やましろ・ひでゆき)発行=成山堂書店2016年サイズ=210X140mm180頁¥2376ISBN9784425830718
著者=1980年琉球大学理学部生物学科卒 現在琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設教授博士
内容=ついこの間まで私は盆栽のような形のサンゴを植物だと思い込んでいた。サンゴは知れば知るほど驚きの姿を現わす不思議の生き物だ。
本書は1,サンゴの基礎知識2,サンゴの種類3,サンゴと多彩な生き物たち4,サンゴ礁と地球環境の4部構成となっている。
ページの小口が緑青橙紫の4色にしてあるので、パラパラとページを繰り、好きなところを開くことができる。横書きで、タイトルと小見出しも色分けされていて見やすい。ふんだんに盛り込まれているカラー写真が楽しさと親しみを伝え、数は少ないが図が優れている。分かりやすい、はっきりとした図に、レベルの高い解説がついている。素人の読者だ、少年少女かもしれない。だからレベルを(一般向け)に引き下げて優しくしてやろう、というような手加減は一切ない。著者の研究成果の全てを投入、詳しい解説をしている。こうした部分を読むと、勝手に相手の力量を推測してレベルを下げてあげましょう、という態度が、如何に的外れの親切かということがわかる。よくよく分かっている専門家が語り渡してくれる言葉は、むしろ単純、簡潔で理解しやすいものだ。お楽しみはコラムだ。目次にコラムのタイトルも並べてあるからコラム目当てに開くこともできる。例えばこんなコラムがある。「光に向かって歩くサンゴ」「童謡・歌とサンゴ」「サンゴ礁の音色 波と天ぷら」「緑色に光る蛍光サンゴ」。こんなタイトルを見たら、読まないではいられない。読み出したらやめられない。多少は知っていると思っていたサンゴは、ごく一部だった。サンゴの万華鏡のような多種多様な姿に感動した。最後の章にある「人とサンゴと地球環境」では、最近の密漁も取り上げられ、白化現象など深刻な問題について解説があり、重く心に響いた。人間活動による海洋汚染の劣化は、人類全体が本気で考えなければ先がないと感じる。索引つき。

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