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Dec 2015

科学者は戦争で何をしたか

『科学者は戦争で何をしたか』著者=益川敏英(ますかわ としひで)発行=集英社 2015 集英社新書 ¥700 ISBN9784087207996
著者=1940年愛知県出身、理論物理学者。素粒子宇宙起源研究機構長、京都大学名誉教授。2008年ノーベル物理学賞受賞。九条科学者の会呼びかけ人。
内容=科学者の立場から現在の社会状況を見て、歯に衣着せぬ意見を述べる。また戦争で被災した経験を語ることの意味と重要さを強調する。
感想=いつも感じることだが、科学者の書く文章は、すっきりしてわかりやすい。伝えたい内容を明確に持っているからできることだ。また、飾り言葉をくっつけないで、核心の部分を伝えようとする意欲もまた強いと感じる。
だいたい、国語の教科書には文芸作品が多すぎる。寺田寅彦の文章だったらまだ許せるが、そこいらの文豪と呼ばれる変わり者たちの寝言文は止めて欲しい。ろくでもない評論なんかも、読ませることはないじゃないか。大人だってロクに読んでもいないのだから。
それはさておき、益川さんの心意気が伝わってくる、気持ちの良い一冊だ。始めから終わりまで、恩師に思いを馳せつつ暮らしている様子が手に取るように伝わってきて、幸せだなあ、こんな先生と弟子の関係は、と心打たれた。
益川さんは研究室に籠もっている学者ではない、世界を見据えて、その中のひとりの人間だという自覚を持って生きていられる、その有り様がよく伝わってくる。戦時下における朝永振一郎博士のエピソードは非常に印象的だった。どの学者も、軍から強要されればせざるを得ない、日本に限らず、マンハッタン計画だってそうじゃないかと私は思っていたが、この状況の中の朝永博士は、ちがった。この章を、ここにコピーしたいくらいだが、最後の一行に留めよう。「でも、朝永先生はそうはしなかった。軍部に自分の研究を渡さないという意志を密かに貫かれたのだと思います。私は、それこそが本来の科学者の知恵だと思います」。
気持ちの良い本を読んで、よい考え方に出会うのは幸せなことだ。

ピュリツァー賞受賞写真全記録

『ピュリツァー賞受賞写真全記録』moments:The Pulitzer Prize-winning photographs 著者=ハル・ビュエル Hal Buell 序文=デービッド・ハルバースタム david halberstam 訳=河野純治 発行=日経ナショナル ジオグラフィック社 2011年 ¥3800 サイズ=190X226mm 320頁 ISBN9784863131415
著者=ハル・ビュエル シカゴで育つ。元AP通信写真部門責任者。ノースウェスト大学でジャーナリズム専攻、カメラマンを経て1956年にAP通信社入社。35ヵ国を訪れて20世紀後半の世界的事件の写真報道に関わった。
序文著者=D・ハルバースタム 1934~2007 アメリカのジャーナリスト。NYタイムズ紙の記者としてベトナム戦争を取材。これにより1964年ピュリツァー賞受賞。政治・企業・メディア・戦争などの分野で、ニュージャーナリズムの旗手として活躍した。
内容=1942年から2011年迄の受賞作品全記録。5部構成で、1期=大判カメラの時代 2期=カメラの小型化 3期=特集写真(複数枚)の賞が加わる 4期=カラー写真時代の始まり。女性写真家が現れる 5期=デジタル革命と題して、2003年以降をまとめている。
感想=写真は、どれもすべて固唾をのむ凄さだ。そして、同じ重さと衝撃で心に響いてくるのが、この二人の文章である。この序文は繰り返し読み、共に考えるための輝くケルンだ。この文章から著者の人格、魂が、彷彿として浮かび上がり、読む人にその精神が伝えられる。本文の各写真に組み込まれるハル・ビュエルの文は、各年度の受賞作品の解説と撮影データだ。
読んで写真を見、ふたたび読む。ここに過酷な現場のカメラマンたちの姿と精神が立ち上がってくる。ハートでシャッターを切っている、と伝わってくる。この文章がなかったら? 目の前のページの映像だけで終わっていただろう。愛を込めて、尊敬を込めて、写真からはみ出して写っていないシーンまでも存分に届けてくれる文章だ。
「日本人ジャーナリストの死」というタイトルでミャンマーでの銃撃シーン、長井健司さんがカメラを握ったまま倒れている写真が出ている。2008年ニュース速報部門受賞作品。撮影者はロイター通信のアドリーヌ・ラティーフ。読んではじめて、そうだったのか。とため息をついた。この時々刻々の動きは、はじめて知る、きわめて詳しいものだった。
女性写真家についての記述は、第4期に書かれている。1990年代に3人の女性写真家が受賞したことをビュエルは、次のように書いている。
「これらの女性写真家たちは、報道写真に必ずしも新しい視点を導入したわけではない。その写真や、取材したテーマを見ればわかるように、彼女たちは、男性写真家とまったく変わらぬすぐれた写真を生み出すプロのジャーナリストである。」このあとに具体例の解説が続くが、これまでもいま現在も、女性の成した仕事を評価する形容詞が、”女性らしい視点”的なものである周囲を見渡し、改めてハル・ビュエルに尊敬と賞賛の念を深くした。このような評価に値するような仕事を、世界中の各所の女性たちが生み出しますようにと願わずにはいられない。
それはさておき、なぜこれほどまでに、闘いの場面、悲惨な場面が多いのだろう? この優れた賞の未来に、幸せな光に満ちたシーンが現れることを祈りつつ、全記録を見続けて行きたい。


チャップリンとヒトラー

『チャップリンとヒトラー』副題メディアとイメージの世界大戦 著者=大野裕之(おおの ひろゆき)発行=岩波書店2015年ISBN9784000238861 210mm 293頁主要参考文献・注記 ¥2200
著者=1974年大阪生まれ 日本チャップリン協会会長・劇団とっても便利代表
内容=イギリス出身の映画俳優他のチャールズ・スペンサー・チャップリン(Charles Spencer Chaplin)と、ドイツの政治家アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)を対比させつつ、映画「独裁者」をめぐり、多くの資料を披露して語る。
感想=この二人の有名人は、出身国もちがい、一度も顔を合わせたことはなかったが、おなじようなちょび髭を蓄え、わずか4日違いで生まれて同時代を生きた。五分五分に対比させているのではない、ヒトラーは引き合いに出されている程度である。著者の眼目はチャップリンの映画「独裁者」にあり、巻末に「独裁者・結びの演説」として、あの有名な演説の全文を載せている。
1940 年6月に、フランスがドイツに降伏、ヒトラーが意気揚々とパリに足を踏み入れたとき、チャップリンは、ハリウッドで「独裁者」のラストシーンを撮影していたという。すでにテスト撮影は何回かされており、その内容は、ドイツ兵が武器を投げ捨て、ユダヤ人たちと踊っているというものだった。しかしチャップリンは不満で、かわりに6分間に及ぶ演説を入れた。演説入りの決定版は、関係者の間で非常な不評を呼び、脅迫まであったという。これを世に出したら興行収入が100万ドル減る、と猛反対されたが、彼は「500万ドル減ってもかまうものか」と言って、反対して動かないスタッフを追い出したという。こうしたエピソードを知ることができるのは、日本チャップリン協会という組織があり、会長さんが書いてくださったからに他ならない。
ヒトラーが、あれだけドイツの民衆の心を掴んだのは彼の演説力にあり、彼の声、身振り、言葉の端々に、聴衆は酔いしれたのだった。たがいに会うことはなかった二人は、別の場所で、それぞれの演説をしたのだった。いま、「独裁者」の演説を読んで感ずることは、一方の演説は死に絶え、一方はというと、今も古びるどころか輝きを増して生き続けているということだ。両者の対比は、意味あることだった。
ついでに一言。本書には、チャップリンとヒトラーの名が、まともに出ていない。内容のところで私はこの二人の名を書いたが、これは私が調べて出したものであり、本書にはカタカナで、チャップリン・ヒトラーとのみあるだけであった。これは、この二人に対して失礼なことだ。
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