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Aug 2019

国家機密と良心

国家機密と良心』副題=私はなぜペンタゴン情報を暴露したか  著者=ダニエル・エルズバーグ 訳ー梓澤 登 若林 希和 発行=岩波書店 岩波ブックレットNo.996 2019 120 サイズ=20cm 740 ISBN9784002709963
著者= Daniel Ellsberg1931年シカゴ生まれ。戦略研究者.平和運動家.元国防総省勤務.元国防次官補佐官.米国国務省で政策研究を行う。
   「ペンタゴン・ペーパーズ」作成に関わるが、1971年に国防総省のベトナム政策決定経過を『NYタイムズ』『ワシントンポスト』に内部告発して合衆国法違反に問われ、起訴、解任される。その後、公訴棄却の判決。以後、軍縮の研究と平和運動に携わる。2016年、ドレスデン平和賞受賞。

内容=本書は、若林希和(通訳者)・大山勇一(弁護士)・医学生(現在は医師)の3名が、サンフランシスコ近郊のエルズバーグ氏宅でインタビューした記録。日本来訪を希望したが叶わなかったために実行委員会を作り企画したという。
   2日間にわたるインタビューで、1日目として自身の生い立ちから人生の転機を迎えるまでが語られ、2日目には、内部告発に至った根の部分、何が私を変えたのか、が語られる。吉岡 忍(ノンフィクション作家・日本ペンクラブ会長)が巻末に丁寧な解説をつけている。
感想=ベトナム戦争の本質を暴露した内部告発は、当時のニクソン大統領を窮地に追い込んだ。暴露された内容などに関しては、現在誰でも詳細が手に入ることから省略する。通読して胸を打たれたことは彼の家族の姿だった。
   当時15歳だった彼と両親、妹。この家族4人が父の運転する乗用車で単独事故を起こし、母と妹が即死した。重症だった父と彼が生き続ける。
   父は仕事の重圧で居眠り運転をしたのだった。父の仕事は何? この悲劇に関して、長いインタビューにもかかわらず彼は、現状を語るだけで感情の片鱗も見せていない。
   強烈な印象と感動を受けたふたつのエピソードがあった。
   一つは彼がまだ少年だった頃に「こんなひどいこと、初めて知ったよ」と泣きながら、読み終えたばかりの本を父に手渡した思い出を語った部分だ。86歳になった父が、このことを彼に思い出として語ったのだが、息子の方は、すっかり忘れていたという。
   その本はジョン・ハーシー著『ヒロシマ』。この本を少年エルズバーグは泣きながら読み、父は少年の手から受け取って読んで以来、忘れなかったのだ。
   息子は老齢の父に尋ねる、「お父さんは、どうして、あの仕事を辞めたの?」
   父は、妻と娘を失ってのちに、水爆の原料を生産する巨大工場の設計に関わっていた設計事務所をやめたのだった。水爆は、原爆の千倍以上だ、そして放射性廃棄物は何万年もの間、地球を汚染し続けると語る父の記憶は確かだったと語っているが、エルズバーグの見識、記憶は驚異的なものがある。
   あれは嘘だったのか。これも嘘だったんだ、と当時の政治家たちの発言を思い出してため息の連続だ。
   立ち位置が、無である、空である。アメリカ合衆国の国民としての目ではない。ヒロシマの惨状に同情するが故の、日本寄りの目では、もちろんない。
   インタビューする相手がどこの国の人間か、なども頓着ない。だから、率直だ。
   人間の持つ良心というものを、率直に表明すること、行動に移すことのために、どれほどの勇気が必要かを思い知らされるが、この父と息子が、決して申し合わせて行ってきたことではない地球愛の源が、若くして逝ってしまった母と妹からの贈り物のような気がしてならない。
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